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シルクロード国献男子30年 第8回 皆で文化遺産を保存 参観団も度々案内

国際協力実践家 小島康誉

日本側の大金寄付と中国側の努力で、キジル千仏洞は見事によみがえりました。その姿や天山氷河・カレーズなどで撮影した「天山を往く~氷河の恵み シルクロード物語~」は2月21日(日)19:00~20:55、BSフジで放送予定、ご覧いただければ幸いです。
今回は文化遺産の保存について話したいと思います。

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残すのは足跡、ゴミは持ち帰って(撮影:筆者)

シリア文化省は昨年8月、世界遺産パルミラ遺跡のバールシャミン神殿がIS(イスラム国)により爆破されたと発表。2001年にはアフガニスタンで世界遺産バーミヤン遺跡の2体の大仏がタリバンによって爆破されました。日本国内でも奈良や京都など各地の国宝や重要文化財の神社仏閣に油のような液体がかけられる事件が昨年ありました。さかのぼれば、1949年法隆寺金堂で火災発生、壁画(重要文化財)が焼損しました。失火説のほか内紛による放火との説もあります。

この火災が起きた1月26日は文化財を火災や震災などから守り、文化財愛護精神を高めるため、「文化財防火デー」と定められました。

キジル千仏洞のみならず世界的文化遺産の保存研究はたいへん重要です。中でも保存は研究に優先します。研究は後世ほど進みますが、消滅したら二度と戻りません。しかし世の中は妙なもので研究にはスポットが当り、保存はそれほど注目されません。保存には、意識・人材・技術・資材などが必要です。最終的には資金に帰結します。政府予算などの公的資金だけでまかなうのは大変です。

オッフスフォード大学から定期的に広報誌が手元に届きます。大学付属ボドリアン図書館で「スタイン日誌」を研究した際に僅かな寄付をしたためです。その“Oxford Thinking”には寄付者の名前・金額が明記されています。10万ポンドはザラで、2,500万ポンドなどという寄付もあります。2,500万ポンドは約45億円、そんな方がズラーと。日本の幾つかの大学からも送られてきますが、一桁二桁三桁違います。

日本では「寄付の文化」は十分とはいえません。数回前に紹介しましたように世界遺産「富士山」では環境保全のため任意協力費(入山料)1,000円を求めていますが、半数ほどの方は払わないとか。

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北前船(森家で撮影:筆者)

日本にも「旦那衆は寄付するのが当然」的思考がありました。三井三菱住友安田といった全国区財閥にとどまりません。昨年末、話題の北陸新幹線に乗って富山へ「白エビ」を食べに行った際、北前船で栄えた廻船問屋のひとつ「森家」(重要文化財)を参観。廻船問屋「馬場家」の寄付100万円をもとに旧制富山高等学校(現富山大学)がつくられたとの説明でした。また富山駅から富山港近くまでの富岩鉄道(現ライトレール)7㎞用地も別の廻船問屋が寄付したとの説明もありました。大正末期の100万円、今ならウン10億円でしょうか。貴方さまも東日本大震災後に、「義援金」を出されたことでしょう。そんな「寄付の文化」を引き継ぎたいものです。

一方で日本には「陰徳の文化」があります。「善行は黙ってするものだ」という考えです。それはそれで日本人の美徳のひとつでしょうが、「21世紀は国際協力の世紀」とも称される中、外に向かって積極的に広報することも重要ではと思います。

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政府主催「東日本大震災3周年追悼式」(国立劇場で撮影:筆者)

キジル千仏洞の保存にも多額の資金が必要です。あわせて保存しようとの人々の固い意識・実行できる人材・高度な技術・各種の資材なども必要ですね。

まずは意識です。そのためには、保存する価値があると感じていただくことが大切と考えて、各種活動をしてきました。TV番組(「新シルクロード考・砂漠に降りた飛天たち」東海テレビ制作・フジ系列全国放送・1991)仲介や出版(『シルクロード・ニヤ遺跡の謎』東方出版・2002など数点)のほか各種講演でもPPTで紹介してきました。また参観団を度々案内し、多くの方にキジルの「世界有数」と称される壁画を観ていただきました。

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第47窟にて(撮影:楊新才氏)

写真はキジル千仏洞の一角ですが、雪融け水の滴りを防ぐ庇を見上げた皆様は「こりゃ~大変だ。大工事でしたね」と、約30年前の修復保存工事の苦闘ぶりを理解いただくとともに「募金に協力した甲斐があった。これからも協力します」とありがたい発言。思わず合掌しました。

一人の力は小さくても、力あわせれば世界遺産登録にも関与でき、楽しい人生を過ごせる一例でしょうか。ありがたいことです。日中双方の皆様に感謝しつつ、国際貢献をアレコレヨチヨチ続けています。

1942年名古屋生まれ。佛教大学卒。浄土宗僧侶、国際協力実践家。66年「宝石の鶴亀」(後にツルカメコーポレーション・あずみと社名変更、現エステールHD)を起業。93年株式上場。96年創業30周年を機に退任。中国新疆へは82年以来、150回以上訪問しキジル千仏洞修復保存、ニヤ遺跡やダンダンウイリク遺跡を日中共同で学術調査するなど文化財保護研究・人材育成など国際協力を多数実践。佛教大学客員教授を歴任し現在は佛教大学内ニヤ遺跡学術研究機構代表、新疆ウイグル自治区政府顧問。編著『日中共同ニヤ遺跡学術調査報告書』『日中共同ダンダンウイリク遺跡学術調査報告書』『念仏の道ヨチヨチと』『新疆世界文化遺産図鑑』『中国新疆36年国際協力実録』『Kizil, Niya, and Dandanoilik』『21世紀は共生・国際協力の世紀 一帯一路実践談』「スタイン第四次新疆探検とその顛末」など。日本「外務大臣表彰」・中国「文化交流貢献賞」「人民友好使者」ほか受賞。