VOICE

国献男子ほんわか日記5 発見した「国宝」は今どこに?

国際協力実践家 小島康誉

こんな変人おっさんもアチコチから講演を依頼されます。「大谷探検隊の収集品を東京国立博物館や龍谷大学ミュージアムで見たことがあるけど、小島さんたちが収集した文物はどこにあるの?」と質問されることがあります。

20世紀初頭前後のシルクロード探検には背景があります。列強が領土拡大を進めていた時代です。一例をあげればスタインは4回にわたって新疆などを探検しましたが、その出発地はインド帝国のペシャワールやスリナガル、インド帝国は大英帝国の属領でした。

スタイン探検は清の末期から中華民国時代に列強によって繰り広げられた領土侵略戦の一環として英国・ロシアを主とした新疆「領土争奪」諜報戦と密接な関連をもって行われた探検を代表するものです。

英国はインドからの北上戦略をとり、ロシアは南下戦略をとり、その衝突地帯が新疆であり、両国はカシュガルに領事館を置き激しい諜報戦を繰り広げました。欧米では「グレイトゲーム」と称されています。その尖兵の役割が各国の探検隊にあったのです。フランス・ドイツ・アメリカなども探検隊を繰り出しました。

「グレイトゲーム」には日本も参戦しています。日英同盟を結んでいた日本の大谷探検隊は英国領事館の各種協力をえています。外務省要請により新疆も調査した東亜同文書院「中国大調査旅行」は長年にわたり実施された稀有な活動です。また日野強陸軍少佐も「その筋より新疆視察の内命を受け」、「帰京復命」するまで、北京・洛陽・西安・蘭州を経て新疆に至り、各地で詳細な調査。さらにはロシア革命の裏舞台で過激派に働きかけ内部から崩壊を謀った明石元二郎陸軍大佐もグレイトゲーム参戦者といえます。

“

(左)東京国立博物館収蔵の大谷隊によるスバシ故城収集品(『新疆世界文化遺産図鑑』より転載)

(右)大英博物館収蔵のスタインによるニヤ遺跡収集品(撮影:筆者)

杉山二郎氏は「スタインとその時代」(『考古学探検家スタイン伝』六興出版1984)で「・・・そして吾が大谷探検隊も仏教調査団でありながら、何らかの形で軍機密にあずかっていたとみたいのである。・・・政商久原房之助氏を媒体とした、軍部とくに参謀本部からかなりの機密費が捻出転用されていたのではないか、とわたくしは推測している」と記しています。

金子民雄氏も『西域探検の世紀』(岩波書店2002)で「一般に情報・外交戦と探検調査とはまったく無関係に見えるが、実はお互い密接な関わりを持っていた。探検は純粋な学問的研究であった半面、高度な情報収集作戦でもあったのである」と記しています。

このような帝国主義を背景として各国探検隊は文化財を持ち出しました。シルクロードの文化財が日本やドイツ・イギリス・インド・アメリカ・フランスなどに収蔵されているのはこのためです。各国の博物館だけでなく、探検隊が売却し個人に渡ったものもあります。

アメリカ大統領選に関連してロシアがサイバー攻撃を仕掛けた、偽ニュースを拡散させたなどと報道されているように、時代は変わっても諜報戦は今も世界中で続いています。

関連話しをひとつ。トランプ氏の大統領就任式に参列した方「トランプさんと会う時は力強く握手ししっかりと眼を見て、自信あふれた面持ちで、ヤル!と言った方が良い。スタッフはバラエティー番組含めてすべてをチェックしている。メディアは反トランプ色が強いが、彼を味方にするには良いところも評価すべきだ」と。私は「クリントンさんはエリート色がつよく票が逃げ、トランプさんは乱暴なおっさん色で庶民から生活も変わると評価されたのでは?」と話しました。銀座の鮨屋で某前大臣らとの楽しい3時間でした。

さて質問への答えです。私たち日中共同隊が発掘した「五星出東方利中国」錦や「西域のモナリザ」壁画などは新疆ウイグル自治区ウルムチ市にある「新疆文物考古研究所」に収蔵されています。上部機関は新疆文物局であり、その上は新疆文化庁です。それらの一部は北京・上海をもとより日本やアメリカなど諸外国での文物展に出陳されています。

来週は気仙沼へ微力応援に出かけ、その足で愛知大学・愛知華僑華人総会・日中文化協会主催の講演会へ。会場は前述した東亜同文書院の流れを汲む愛知大学、ご縁ですね。どんな質問を頂けるか楽しみです。

ほどほどほどほど

あれも欲しい、これも欲しい。あれもやりたい、これもやりたい。人間の欲望にはキリがありませんね。「背に床柱、前に酒、左右の女、懐に金」、上手いことを言ったものです。

「背に床柱」は名誉欲と睡眠欲。偉い人は上座を勧められます。柱にもたれての春の居眠り最高でしょうね。「前に酒」は食欲です。酒は食事全体を指しています。「左右に女」は性欲。「左右に男」と言い換えられますね。「懐に金」は財欲です。

小僧も同様で、これら全部が欲し~い!そのために今も宝くじを買っています。中々当たりません。妻が「他の人に譲ったのね」と慰めてくれます。ジャンボとロト6・ロト7が当たるとウン億円、奨学金を増やす、遺跡保護研究を強化する、学芸員を雇う・・・などと妄想しています。ほんわかほんわか。

上記の五欲があればこそ人類は発展してきたわけで、これらが無かったら人類は絶滅していたことでしょう。五欲に支配されるか、五欲をコントロールできるか?支配されれば苦しみが、コントロールできれば楽しみが・・・。「ほどほど」に五欲を発揮したら良いのでしょうね。

“

小僧落書き、背景はケニー・シャーフ※の作品(撮影:筆者)

でもでも「ほどほど」は難しい。私メなどはこの歳になっても「あれもこれも欲しい、あれもこれもやりたい」といった煩悩が朝昼晩と出現します。困ったものです。やむなく「ほどほどほどほど」と自分に言い聞かせています。ほんわかほんわか。

嬉しい話をひとつ。この「国献男子ほんわか日記」と「シルクロード国献男子30年」ははるか彼方のウルムチでも検索されています。友人の年賀状(今年は1月28日が旧暦の春節)に「忘れた単語を辞書で調べながら読んでいます。留学していた富士山のふもとで再会できる日を楽しみにしています」などと日本語で書いてありました。ほんわかほんわか。

※Kenny Scharf:1958年アメリカ・ハリウッド生まれ。NY中心にウォーホル・ヘリング・バスキアなどと活躍したポップアーティスト。アニメのキャラクターも取り入れた。上記作品は東京で制作された。

1942年名古屋生まれ。佛教大学卒。浄土宗僧侶、国際協力実践家。66年「宝石の鶴亀」(後にツルカメコーポレーション・あずみと社名変更、現エステールHD)を起業。93年株式上場。96年創業30周年を機に退任。中国新疆へは82年以来、150回以上訪問しキジル千仏洞修復保存、ニヤ遺跡やダンダンウイリク遺跡を日中共同で学術調査するなど文化財保護研究・人材育成など国際協力を多数実践。佛教大学客員教授を歴任し現在は佛教大学内ニヤ遺跡学術研究機構代表、新疆ウイグル自治区政府顧問。編著『日中共同ニヤ遺跡学術調査報告書』『日中共同ダンダンウイリク遺跡学術調査報告書』『念仏の道ヨチヨチと』『新疆世界文化遺産図鑑』『中国新疆36年国際協力実録』『Kizil, Niya, and Dandanoilik』『21世紀は共生・国際協力の世紀 一帯一路実践談』「スタイン第四次新疆探検とその顛末」など。日本「外務大臣表彰」・中国「文化交流貢献賞」「人民友好使者」ほか受賞。