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アートへの招待60 特別展「妙心寺 禅の継承」は、見どころ満載

文化ジャーナリスト 白鳥正夫

春3月、お出かけに適した季節となった。大阪市立美術館で、興祖微妙大師六百五十年遠諱記念特別展「妙心寺 禅の継承」が4月5日まで開催中だ。屏風や襖絵の名作を一挙公開日するなど見どころ満載である。後期展示に入っているが、わが国独自の伝統のある仏教文化に触れる機会でもあり、お勧めの企画展だ。

興祖微妙大師六百五十年遠諱記念して開催

臨済宗妙心寺派の大本山・妙心寺は、京都西郊の風光明媚な花園の広大な敷地に立地している。境内には法堂を中心に約40もの塔頭寺院が並んでいる。かつてこの地は、花園法皇(1297-1348)の離宮御所があり、妙心寺派寺院は、壮観な伽藍とともに、桃山時代を中心とする絵画の宝庫として知られている。

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妙心寺の仏殿

今回の展覧会は、妙心寺を禅寺に改めて開山した関山慧玄[かんざんえげん](無相大師、1277-1360年)の唯一の弟子であり、第二世として寺の基礎を築いた高僧、授翁宗弼[じゅおうそうひつ](微妙[みみょう]大師[だいし]、1296-1380年)の六百五十年遠諱(おんき)を記念して開催されるもの。

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プレス内覧会

関山から授翁へと受け継がれた禅の系譜を軸に、妙心寺の歴史、禅宗美術、狩野派・長谷川派・海北派らによる桃山絵画の名品が数多く出品されている。さら大阪を中心に妙心寺派寺院で進められてきた最新の寺宝調査の成果もあわせて公開され、連綿と継承されてきた妙心寺の禅の精神に迫っている。

開山忌の大方丈の荘厳な設えを展示

見どころをプレスリリースに沿って、その内容と主な展示品を取り上げる。 なお会期中に展示替えがあり、後期展示(3月10日~)が始まっているので、前期のみの展示は省く。

第一の見どころは、「開山忌の大方丈(おおほうじょう)での設(しつら)えを展示」している。開山忌は妙心寺開山・関山慧玄の忌日の法要で、一年のなかでもっとも重要な法要の一つだ。近年、江戸時代における開山忌では大方丈で特別な設えによる荘厳(しょうごん、仏像や仏堂を飾ること)がなされていたことが分かった。

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重要文化財 狩野山楽《龍虎図屏風》右隻(桃山時代・17世紀、妙心寺)

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重要文化財 狩野山楽《龍虎図屏風》左隻(桃山時代・17世紀、妙心寺)

重要文化財である狩野山楽の《龍虎図屏風》(桃山時代・17世紀、妙心寺)は圧巻。天空から舞い降りる龍と迎え撃つ虎がリアルだ。

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重要文化財 海北友松《花卉図屏風》右隻(桃山時代・ 17世紀、妙心寺)

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重要文化財 海北友松《花卉図屏風》左隻(桃山時代・17世紀、妙心寺)

同じく重要文化財である海北友松の《花卉図屏風》(桃山時代・17世紀、妙心寺)も負けていない。金地に浮かぶ牡丹や梅、椿が鮮やかに描かれている。

こうした「妙心寺屏風」の異名を持つ大型の屏風群が立て廻され、金碧(きんぺき)の豪華絢爛な設えだ。「妙心寺屏風」とは、妙心寺に伝わる桃山時代に特大サイズで描かれた、大迫力の屏風群のこと。標準よりも25センチほど高さのある大画面に描かれていて、これを大方丈の長押(なげし)の下に折り曲げることなくフラットに立てかけると、ピッタリとした高さになる。

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重要文化財《十六羅漢図のうち第二「迦諾迦伐蹉尊者」》(鎌倉時代・14世紀、妙心寺) 画像提供:株式会社 修美

さらに、妙心寺の法系を伝える高僧の頂相(ちんそう)や墨蹟のほか、《十六羅漢図》が堂内に掛けられる。このような寺宝中の寺宝で荘厳された開山忌の風景を会場で見ることができる。

重要文化財の《十六羅漢図のうち第二「迦諾迦伐蹉尊者」》(鎌倉時代・14世紀、妙心寺)も出品されている。

見どころの第二は、「狩野山楽・山雪による天球院の襖絵を大公開」。天球院は、寛永8年(1631年)に池田輝政の妹、天球院殿によって創建された妙心寺の塔頭だ。狩野山楽・山雪父子によって描かれた方丈の襖絵は、金地濃彩の鮮やかな彩色が現在でも色鮮やかに残り、桃山絵画を引き継いだ、江戸初期絵画の代表的な名作だ。

普段は非公開で、なかなか目にすることのできない襖絵を塔頭内と同じ形で再現展示することで、金碧画の最高傑作を間近に鑑賞できる。

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重要文化財 狩野山楽・山雪《梅花遊禽図襖》部分「江戸時代・寛永8年 1631)画像提供:天球院(綴プロジェクト)

重要文化財の狩野山楽・山雪の《梅花遊禽図襖》部分(江戸時代・寛永8年 1631年 都・天球院)は、水平、垂直、斜め45°の見事な幾何学的構成で興味を引く。

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重要文化財 狩野山楽・山雪《竹林猛虎図襖》部分(江戸時代・寛永8年 1631年、京都・天球院)画像提供:天球院(綴プロジェク)

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《竹林猛虎図襖》の展示風景

これも重要文化財の狩野山楽・山雪による《竹林猛虎図襖》部分(江戸時代・寛永8年 1631年 京都・天球院)は、シンプルで大胆な構図です。ほかにも、重要文化財の狩野山楽・山雪の、やまと絵的な優美さが際立つ《朝顔図襖》部分(江戸時代・寛永8年 1631年、京都・天球院)が展示されている。

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重要文化財 狩野山楽・山雪《朝顔図襖》部分(江戸時代・寛永8年 1631年、京都・天球院)画像提供:天球院(綴プロジェクト)

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《朝顔図襖》の展示風景

長谷川等伯の《枯木猿猴図》などの名品

第三は、「大阪の妙心寺派」。大阪府内には現在、約50カ寺の妙心寺派寺院があり、本展開催にあたり、うち11カ寺で文化財調査が実施された。興味深いのは、平安~鎌倉時代の仏像などといった、創建時よりも古い像を安置している寺院が複数あったことだ。おそらく妙心寺派として教線を広げていく際に、それ以前の由緒のある寺院を引き継いでいったと考えられる。

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白隠慧鶴《渡唐天神図》(江戸時代・18世紀、大阪・寒山寺)

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白隠慧鶴《達磨像》(江戸時代・18世紀、大分・萬壽寺)

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白隠慧鶴《達磨像》(江戸時代・18世紀、大阪・寒山寺)

また、白隠慧鶴[はくいんえかく](1685-1768年)やその弟子の東嶺円慈とうれいえんじ(1721-92年)といった江戸時代の妙心寺派の高僧の書画も多数確認され、妙心寺の禅の教えが広まった様子を示している。地元大阪の妙心寺派の寺院に伝わる普段非公開の寺宝を展示し、あまり知られていない大阪の豊富な文化財について紹介されている。

白隠慧鶴の《達磨像》(江戸時代・18世紀、大分・萬壽寺、後期)は、朱と黒の強烈なコントラストが際立っている。年記はありませんが、白隠最晩年83歳の作。

このほか、妙心寺や塔頭寺院には、室町時代の相阿弥をはじめとして、狩野派の狩野元信や、桃山絵画を代表する画家、長谷川等伯、海北友松、狩野山楽・山雪などといった、日本絵画史上に残る名品が数多く遺されている。

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湖南市指定文化財《千手観音坐像》(南北朝時代・14世紀、滋賀県・妙感寺)

 湖南市指定文化財《千手観音坐像》(南北朝時代・14世紀、滋賀県・妙感寺」は、微妙大師ゆかりの妙感寺の本尊だ。

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重要文化財 長谷川等伯《枯木猿猴図」》左幅(桃山時代・16~17世紀、京都・龍泉庵)

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重要文化財 長谷川等伯《枯木猿猴図」》右幅(桃山時代・16~17世紀、京都・龍泉庵)

重要文化財である長谷川等伯の《枯木猿猴図》(桃山時代・16~17世紀、京都・龍泉庵)に注目だ。猿の生き生きとした様子がかっしゃされていて、等伯円熟期の優品で注目だ。

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重要文化財《銅鐘ISH入紋》(桃山時代・天正時代 1577年、春光院)

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《釈迦如来坐像》(平安時代・12世紀)

さらに京都の南蛮寺で用いられていた銅鐘は、同寺をしのぶ唯一の文化財だ。大坂の妙心寺派の大仙寺からは《釈迦如来坐像》(平安時代・12世紀)なども出品されている。

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翁宗弼墨蹟《少水魚有楽》(南北朝時代・14世紀、京都・天授院)

翁宗弼墨蹟の《少水魚有楽》(南北朝時代・14世紀、京都・天授院)は、「魚は私たち自身、水は寿命。無常の人生にも楽しみがある」という微妙大師の教えを表している。

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《青磁八卦文香炉》(中国・明時代・15~16世紀、妙心寺)

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《銅具足》(江戸時代・寛文4年 1664年、妙心寺)

絵画や仏像のほか、工芸など珠玉の寺宝も数多い。《青磁八卦文香炉》(中国・明時代・15~16世紀、妙心寺)や、《銅具足》(江戸時代・寛文4年 1664、年、妙心寺)など豊富な作品も並ぶ。

妙心寺は、建武2年(1335年)に法皇が花園御所を禅寺に改めることを発願して創建された寺院だ。五山十刹が隆盛を極めた京都において、妙心寺はそれとは一線を画し、厳しい修行を重んじる「林下」の禅を体現する代表的な寺院として歩みを重ねてきた。

無相大師の後を継いだ微妙大師をはじめ、多くの高僧を輩出した妙心寺は、室町時代以降、戦国大名の篤い帰依を受けて数多くの塔頭が建立された。その中で、狩野派をはじめとする桃山絵画や障壁画の名品が伝えられ、また豊臣秀吉の子・棄丸(のちの秀頼)ゆかりの宝物も大切に受け継がれてきた。さらに江戸時代には、白隠慧鶴や僊厓義梵といった名僧が現れ、その思想や書画は、今日に至るまで親しまれている。こうした寺の沿革を予習して鑑賞すると、「美と信仰が息づく 禅の大本山」を、より身近に理解できる。

文化ジャーナリスト。ジャーナリズム研究関西の会会員。平山郁夫美術館企画展コーディネーター・民族藝術学会会員。 1944年8月14日生まれ 愛媛県新居浜市出身。中央大学法学部卒業後、1970年に朝日新聞社入社。広島・和歌山両支局で記者、大阪本社整理部員。鳥取・金沢両支局長から本社企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を努める。この間、戦後50年企画、朝日新聞創刊120周年記念プロジェクト「シルクロード 三蔵法師の道」などに携わる。 著書に『シルクロード 現代日本人列伝』『ベトナム絹絵を蘇らせた日本人』『無常のわかる年代の、あなたへ』『夢追いびとのための不安と決断』『「大人の旅」心得帖』『「文化」は生きる「力」だ!』(いずれも三五館)『夢をつむぐ人々』『夢しごと 三蔵法師を伝えて』(いずれも東方出版)『アート鑑賞の玉手箱』『アートの舞台裏へ』『アートへの招待状』(いずれも梧桐書院)など多数。