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シルクロード国献男子30年 第1回 初めての新疆 人々の温かい心と豊富な文化遺産に魅かれる
国際協力実践家 小島康誉2015年8月10日、私とアジアドキュメンタリーセンターの撮影クルー(菅家久・辻中伸次・何祖杰各氏)は、キジル千仏洞で「世界遺産シルクロードを支えた水と氷の物語」(仮題)の撮影を開始しました。来年春頃BSフジで放送予定です。
キジル千仏洞は2014年6月22日、世界文化遺産に登録されました。その瞬間を一刻も早く知りたい私は、カタールの首都ドーハで開催されていた第 38回ユネスコ世界遺産委員会の生中継を寓居のパソコンで見続けていました。16時50分(日本時間)、女性議長がキジルをふくむ「シルクロード:長安- 天山回廊の交易路網」世界文化遺産決定を宣言。その瞬間、妻と「万歳!」と叫びました。即興で「喜びと感謝」を走り書きしました。
私にとって、キジルはそれほどの存在なのです。その話は追い追いしたいと思います。
今回は新疆との出会いを話します。1982年6月、初めて新疆ウイグル自治区を訪れました。ジュエリー原石の買付が目的でした。今の私を知る人は「僧侶がどうして宝石の買付?」と思われるかもしれませんが、当時はジュエリー専門店チェーンの社長でした。
その10年前に日本は中国と国交回復。その時から「広州交易会」で買い付けていました。
当時はいろいろと制限があり、中国側が認めた「友好商社」しか参加は認められず、友好商社嘱託としての参加でした。その頃は中国やソ連(現ロシア) は「アカ」と呼ばれていました。共産党の色からです。母が「警察が聞き込みに来た、と隣家の人が教えてくれた。何かあったの?」と心配げでした。今では考 えられない時代でした。
パスポートも通常とは別のもの。英領香港の中国系ホテルで中国ビザを取得し、中国との国境の鉄橋を歩いて渡ると、着剣小銃の解放軍兵士が両側に並ん でいました。広州へ向かう列車では『毛沢東語録』日本語版を同乗邦人と一斉朗読。ホテルの部屋には鍵がありません。何故と訊くと「わが中国には悪人はいな いから鍵はいらない」と。休日は人民公社参観、夜は抗日戦争鑑賞が手配されました。その後も北京・天津・上海などで買い付けていました。
ある時、友好商社から「新疆に良い宝石がある。買付に行きませんか」との誘いをうけ、ソ連の軍用機を改造した飛行機で新疆ウルムチへ降り立ったのが 33年前のことです。当時のウルムチは特別の入境許可証を必要とする都市で、街にはビルらしいビルはなく、ラクダが荷物を運び、羊が道の脇に放牧されていました。
軍の警備する緑に囲まれた新疆迎賓館に案内され快適な眠り。翌日その会議室で商談開始、「お疲れでしょう」と宝石は出てきません。三日目、「早く見 せて欲しい」と要求しても「宝石は大変珍しく、少ない鉱物です」の繰り返し。午後やっと机ほどの木箱が運び込まれました。「やはり良い宝石はない」と直 感。何故なら良質の宝石は希少でそんな大きな箱にはいっていないし、専門家なら当然知っている希少性を強調するからです。出されたものは低品質のベリルと ガーネットの原石でした。「この書類に書いてある宝石は!」と迫ると、「宝石は大変貴重なもので、我が分公司は出来たばかりで、これらは取り扱い予定品目 です」と。返す言葉もありませんでした。
先方は気がひけたのでしょう、トルファンへ案内してくれました。交河故城やベゼクリク千仏洞などを参観しての帰り、突然の大雨で通行止め。現在では 一日10便もある北京便は当時週2便しかなく、どうしてもその日のうちにウルムチへ帰らねばなりません。しかし道路は通行止め。
案内してくれた工芸品公司の龔課長が「夜中12時頃に貨物列車が通るはずだ、それを停めて乗ろう」と。33年前の辺境の地で、外国人が軍事施設でも ある貨物列車に乗るのは至難なこと。塩湖貨物駅での交渉は約2時間に及びました。彼はまず老駅員を説得し、次にはウルムチの鉄道本部を説得し、彼の身元を 証明するために工芸品公司の責任者から鉄道本部へ電話。待つこと約20分。解放軍から駅員へ電話。「こちらは人民解放軍の○○だ。そこに工芸品公司の龔と 日本人4人はいるか?」、「います」、「その人たちを貨物列車に乗せて、ウルムチまで送ることを許可する」。
貨物列車で帰る、右端が筆者(撮影:寺尾氏)
この直後に列車の警笛が聞こえました。降りしきる雨の中、ホームへ走り、老駅員がランプをかざし列車を停め、最後尾車両に乗せてくれました。解放軍 兵士が乗っていました。列車は途中で何回も停車。ウルムチ駅へ着いたのは午前5時。迎賓館で仮眠する間もなく空港へ急ぎました。
この客中心で対応する熱い心に打たれ、豊富な文化遺産に惹かれ、新疆に迷い込む結果となりました。私の国際貢献はこうして始まりました。今風にいえば「国献男子」の始まりです。
キジル千仏洞や天山の氷河など新疆を紹介する番組が放送されることになったのを機に、この「シルクロード国献男子30年」を書き始めました。これからほぼ隔週で、更新するつもりです、是非のぞいてみてくださいませ。ありがとうございます。