VOICE
シルクロード国献男子30年 第10回 文化財保護は重要 現実はなかなか困難
国際協力実践家 小島康誉本年2月に放映されたBSフジ「天山を往く~氷河の恵み シルクロード物語~」撮影が開始されたのは昨年8月。この縁に感謝して、この妙なタイトルの連載を始めました。
遡れば、30年前の1986年にキジル千仏洞を初参観し「人類共通の文化遺産」と直感、保護に役立ててと寄付。翌87年に「日中友好キジル千仏洞修復保存協力会」を立ち上げ、募金に駆けずり回り、88年と89年に多くの方々の浄財1億円余を新疆ウイグル自治区政府へ贈呈。以降も参観団派遣・講演・職員通勤用バス寄贈などを継続してきました。そして、2014年「世界文化遺産」登録。日中双方の多くの方々に感謝するばかりです。
世界遺産になるまでは「もの好き、変人」と言われていました。また「仏教遺跡を保護するのは僧侶だから当然」と書かれたりしました。
中国、しかも何かと報道される新疆ウイグル自治区に所在する遺跡のため「中国が好きなのですね」とか「新疆、大丈夫ですか」などと問われたことも度々。キジル保存協力に続き、ニヤ遺跡などの調査・奨学金・小学校建設なども実践し続けているので、なかには「どうして中国に協力するの?」と、日中関係にからめての質問も講演の際によく出ます。あるいは「私財を投じるのは何故?」と筆者を金持ちのようにとらえての質問も。
世界遺産になった後は「さすが、先見の明」などとも言われますが、相変わらず「中国でよくぞ30年も」と冷やかされます。
「世界的文化遺産の保護は大変重要」と各地の講演で話すと、「それは分かるが政府の仕事では?」と訊ねられたりします。政府だけでなく、皆が協力することも大切ではと思います。そんな意味合いからキジル参観団を度々結成したり、日本のみならず中国各地、例えば新疆政府・新疆大学・北京大学・清華大学・南開大学・同済大学・大連大学・国家博物館などでも講演、更には写真集を出したり、広報用ネット「中国歴史文化遺産保護网」www.wenbao.netを中国で設立したりして文化遺産保護の重要性を訴求しています。
BSフジの番組でキジル千仏洞などの修復保存の重要性を取り上げてもらったのも、その一環です。安藤佳香教授(佛教大学・仏教美術史・主著『佛教荘厳の研究 グプタ式唐草の東伝』)には「キジルの部分に感動した。文化財保護の使命感が伝わってきた」とコメントいただきました。このように文化財保護の重要性が十分に伝わったら嬉しいです。
昨年の新疆ウイグル自治区成立60周年に際してキジルなど新疆の6世界遺産の写真集『新疆世界文化遺産図典』(新疆美術撮影出版社・10,000冊)などを出版し新疆側へ贈呈したのもその一環です。迫力ある写真は日中両国で大好評、是非とも日本語で読みたいとの多数の要望に応えて、日本語版(日本僑報社・段躍中編集長)を3月に出版すべく進めています。
日本は海洋国家・貿易立国として世界に飛躍してきましたが、260年余の「鎖国DNA」のうえに、「大戦後呪縛」と「失われた20年」などにより、内向きになりつつあります。21世紀は国際協力の世紀、外向き考動が求められています。筆者自身は一市民であり、たいしたことは出来ませんが、まあボチボチやっています。やはり変人なのでしょう。
新疆ウイグル自治区政府が日本からの修復保存協力を高く評価している一例を紹介したいと思います。多くの方々の浄財寄付に感謝して新疆政府により記念碑が建立されました。20余年の時を経て、劣化しました。当時のキジルの中心に建てられましたが、研究施設増設や参観者向けホテル建設などにより目立たない場所となってしまいました。
2011年、新疆政府主催「小島康誉氏新疆来訪30周年記念活動」が開催され、その一環で記念碑が改築されました。式典には30名の日本人とともに居合わせたドイツ人研究者らも参加。寄付いただいた方々や協力会役員諸氏の芳名はそのまま刻まれています。場所もホテル近くに移されました。皆で力出しあい喜びあえる幸せ。ありがたいことです。
後日談をひとつ、翌12年、ロンドンの大英図書館で開催された「へディンとスタインの遺産と最近の探検国際カンファレンス」で、キジル千仏洞の修復保存活動などを発表した際、そのドイツ人に再会し驚きました。
ご縁がご縁をよぶ、幸せの連鎖、嬉しいことですね。地球号乗員73億人は助け合って生きて行きたいものです。