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シルクロード国献男子30年 第22回 子供たちのために-希望小学校
国際協力実践家 小島康誉子供たちの未来は輝いていてほしい。小学校での学びは最低条件のひとつ。新疆の小学校に5校舎を建設しました。文化財保護研究事業から広がった国際貢献の一環です。
きっかけはジュエリー専門店チェーンの社長時代にさかのぼります。監査役として指導いただいていた上岡長作氏(上村工業専務取締役・故人)から「中国にはいろいろ世話になった。貴方は新疆で貢献しているので、資金協力したい」と。文科省の助成金以外はすべて私費で行っていた「日中共同ニヤ遺跡学術調査」も佳境に入り、調査やシンポジウム・報告書などの費用に苦労していたのを見かねてのありがたい申し出。会社でそんな話をしたこともないのに、顔に出ていたのでしょうか。
それらに使わせていただいたのでは、上岡様のお心が活かせないと考え、「希望小学校」建設を提案し、快諾いただきました。さっそく新疆ウイグル自治区政府外事弁公室へ相談し、新疆青少年発展基金会と具体的準備にはいりました。こうして出来上がったのが日中友好クチャ希望小学校、1998年のことです。クチャ(庫車)は天山山脈(2013年世界自然遺産)の南麓、タクラマカン沙漠の北縁に位置し、西域北道の要衝として栄えた都市です。西方約70㎞にキジル千仏洞(2014年世界文化遺産)が所在します。写真は建設当初の校舎です。その後に改築されより充実されています。
ほかの学校では安田暎胤・喜多野高行・涂善祥・遠藤さち子各氏はじめ多くの方々にも拠出いただきました。新疆は多民族地区、漢・ウイグル・モンゴル族など民族バランスも考慮してクチャ・ウルムチ・バインブルク・カナス・ジムナイに5校舎を建設しました。
上岡長作夫妻の浄財による日中友好クチャ希望小学校(撮影:筆者)
西山希望小学校調印の喜多野高行氏とバインブルク希望小学校竣工式(撮影:楊新才氏)
カナス希望小学校竣工式(撮影:楊新才氏)
小学校建設協力も考え方の異なる外国との活動、すべてが順調に進んだわけではありません。バインブルク小学校では竣工式の1週間ほど前の強風で屋根が吹っ飛びました。私は新疆側から聞かされていませんでした。校舎を参観した同行者から「小島さんは知っていたのか。中国に協力するからにはしっかり管理しなくては!」と厳しくもありがたい指導をいただきました。新疆側に問いただすと「すぐ修理する予定なので、伝えなかった」と。相互理解の難しさがこんなところにも。後日、修理された写真が送られてきました。
竣工式は突然ドシャブリ。写真のように傘をさしてのバタバタ進行。「奇跡の雨」と大喜びされました。「旱魃つづきで羊が食べる草もなくなりやせ衰え、困り果て一週間前にはラマ僧に雨乞いをしてもらったが降らなかった。日本の僧侶が来たらドシャブリ。本当にありがたい。奇跡だ」と。私は「ラマ僧による雨乞いの結果でしょう」と応じました。
バスキア作品62億円
またまた文化財保存に戻ります。ジャン・ミッセル・バスキア(1960~88)と聞かれて、ピンとこられた方はコンテンポラリーアート通ですね。1980年代のNYを駆けぬけ27歳で早世したアーティスト。ウォホールとの共同制作でも知られています。昨今では「ユニクロ」のTシャツにも登場、私も愛用しています。
TVリモコンをガチャガチャやっていたら映画「バスキア」の終わりがけが目に。妻と「随分と高くなっているはず」と言いながら観ました。ふた昔前の社長時代にジュエリー専門店チェーン事業で今日の業績をあげ、アート事業で明日の業績のタネをまいていた頃、彼の作品も多数買い付けていたからです。その肉体から噴出すような躍動感に魅せられていました。バスキアふくめ一時は日本でも有数の品揃えだったのでは。異文化紹介も企業の役割ととらえて、作品を東京国立近代美術館や国立国際美術館・名古屋市美術館・北九州市美術館・グッケンハイム美術館・ベルリン美術館などへ貸し出しもしていました。数代後社長時代に殆どが売却されたようです。バスキア1984年制作“Untitled”は福岡市美術館にコレクションされているとか。世界のセレブに渡った作品も多いと聞いています。
「バスキアは桁違いの価格になっているはず」とWebを開くと、5月のクリスティーズNYオークションで、57,285,000ドル(当日レート約62.4億円)で落札されたと報道、写真も掲載されていました(産経新聞電子版2016.05.12ほか)。
見覚えのある作品。昔の会社案内を探し出し、パラパラすると1990年版にフランク・ステラ、アンディ・ウォホール、ジャスパー・ジョーンズ、ジュリアン・シュナーベル、サンドロ・キアなどの作品とともに載っていました。1982年アクリル絵具でキャンバスに描かれたタイトル名のない作品です。嬉しい話です。当夜はその会社の現社長から招かれていました、妙な偶然です。紹介し乾杯しました。
日本人が内向きになりつつあると言われている中、落札者が日本人であったことも嬉しいですね。公開されたら再会させていただくのが楽しみです。
ツルカメコーポレーション(現As-meエステール)会社案内1990から転載
Web検索していて不思議な縁にたどり着きました。バスキアと親交があったアンディ・ウォホール(1928~87)の“Coca-Cola[3]”が2013年クリスティーズNYオークションで、バスキア上記作品と同額の57,285,000ドルで落札されていました(Bathyscaphe-Jotok 2014.02.24)。共同制作までしていた二人の作品が同額落札とは!驚きです。競り合いの結果でしょうが、バスキア作品を落札された方、現代美術熱愛家のようなのでひょっとしたら意識されていたのでしょうか。同じWebにバスキアの“Dustheads”は48,843,750ドルで落札、2013年現代美術高額落札第7位と記載されていました。
現代美術も文化財、その保存がオークションという経済活動を通じて行われている点は動かせない文化財(世界遺産や伝統的建築物など)の保存にも参考になるのでは。巨費を要する保存活動に経済活動を組み合わせることにより、保存の可能性が見出せるのでは。博物館・神社仏閣などの参観料や関連グッズ販売はその先例。Web時代となり普及し始めたクラウドファンディングの活用も重要でしょうね。富士山の入山料(1,000円・保全協力金)を半数ほどの方が納めないとか、義務化が必要でしょうね。皆の文化財を守るのは皆の責任と思います。