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国献男子ほんわか日記12 大規模調査の手順って?
国際協力実践家 小島康誉来年は日中共同ニヤ遺跡学術調査開始30周年にあたります。1988年から開始して97年まで9回の現地調査を敢行。2002年からの日中共同ダンダンウイリク遺跡学術調査は06年までに4回の現地調査。それらの成果は数巻の報告書や度々のシンポジウム、あるいは写真集などで公開してきました。Web「シルクロード国献男子30年」でも写真入りで報告し好評をえています。多くの方々のおかげです。ありがたいことです。
「五星出東方利中国」錦や「西域のモナリザ」壁画といった検出遺物ばかりが取り上げられますが、その前後の苦闘は注目されません。日本の総面積に匹敵するほどの大沙漠に残存する遺跡調査、幾多の困難がありました。今回は手順について紹介します。略記すれば、計画→打合せ→協議書→資金準備→中国政府許可→強力チーム編成→実施計画→実行→総括→次年度以降もこれらの繰り返し………調査研究成果の公開、ということでしょうか。
まず大まかな計画を立案し、中国側と打合せ。一回では合意できませんので繰り返しての交渉が必要。交渉を通じて計画が煮詰まっていきます。合意に達したら協議書調印となりますが、その文案でも調整が必要です。協議書の前に覚書を交わす場合もあります。大まかな計画段階で考えていた概算経費を修正し確定、具体的準備に入ります。一方、中国側は政府許可の取得手続き。新疆政府の許可をとり、必要な場合は中央政府の許可を。
次は強力チームの編成です。世界的文化遺産の保護研究にふさわしい高レベルであることが求められます。多領域の研究分野にまたがるため多くの研究機関から参加いただきました。計画や打合せ段階で主要メンバーは決まっていても正式許可前後に隊員全体を決定することになります。そして実施計画を作成し、実行。
年度調査の総括を行い次年度へ進みます。また上記の過程をへて……こんな地道で骨の折れることの積み重ねです。そして報告書やシンポジウムでの成果の公開へと進みます。これがまた一苦労、いや二苦労……。
訂正とお詫び:ほんわか日記No.02「シャワーもトイレもない3週間」で、大沙漠での調査の種々困難を紹介。「…トイレは難題です。ビニールシートで囲った仮設トイレを相談したこともありますが、ほかの遺跡調査隊では中々利用してもらえなかったと聞き作りませんでした」と書きましたが、作ったことがありました。訂正しお詫びいたします。
干上がった川床を掘って…(撮影:筆者)
天津TV「泊客中国」が小生の国際貢献の番組を作りたいと、昨年9月キジル千仏洞・新疆文化庁・新疆大学での撮影に始まり、12月には佛教大学・知恩院・薬師寺・寓居でも取材。これで十分と思うのですが、もっと長い番組にしたいので、写真データ100点余を提供して欲しいとの連絡。うち1点はニヤ遺跡調査を写真中心で紹介した『シルクロード・ニヤ遺跡の謎』(東方出版2002)掲載の「ビニールシートで囲った仮設トイレ」の写真でした。
自分で撮ったにもかかわらず20年ほど前のことで失念。歳なりの老化進行、お許しくださいませ。苦労して掘ったわりには人気がなく次年度以降は作らなかったことも思い出しました。GPSで位置情報を記録し後世の人たちが時代を混同しないように備えました。
先月の某TV局の撮影と某大学の調査立ち合いでの新疆行きはずれ込んでいます。上記天津TVからニヤ遺跡などでも取材したいとの要望がきて調整中です。実現したら報告します。なお番組は当初2月ごろ放映と聞いていましたが、9月ごろに延びているようです。
完璧なんかトンデケ~
私は困った性格です。何事もトコトンやらないと気がすみません。完全を目指します。完璧を目指します。出来っこないのに!ほどほどで良いのに!この「ほんわか日記」No.5でも「ほどほどほどほど」と書いているのに困ったものです。ほんわかほんわか。
完璧の璧とは古代中国で珍重された環状の玉器のことです。璧には玉という字が入っています。玉は権威の象徴として悪霊からの護符として皇帝から庶民にまで珍重されてきました。「上から下まで玉を珍重することは、古代から今に到るまで少しも変わらなかった」と井上靖も『崑崙の玉』に書いています。日本でもパワーストンとして人気があります。
完璧にまつわる故事があります。昔むかしのその昔、素晴らしい璧を持っている趙の王がいた。それを手に入れたい秦の王は「15の城と交換する」と申し出た。強国に滅ばされるのも困るし璧も渡したくない趙の王は使者を送った。使者の巧みな交渉で璧も国も守り抜いた。そこから完全に成し遂げる、欠点がないことを完璧というようになったそうです。
小僧落書き、背景はホータン産出玉(撮影:筆者)
玉音・玉座・玉璽・玉案・玉将…。寓居にも新疆との縁でかなりの玉が。中国では玉もバブルで超値上がりしましたが、最近は一時ほどではないようです。ほんわかほんわか。