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国献男子ほんわか日記127 新疆ニヤ遺跡 再び栄冠「百年百大考古発見」

国際協力実践家 小島康誉

前回の吉報の詳細:10月18日、中国河南省三門峡市で第3回「中国考古学大会」が開催され、国家文物局(文化庁相当)・中国考古学会など主催により、中国考古学100年を記念し「百年百大考古発見」が発表され、北京原人が発見された北京周口店遺跡や始皇帝陵・敦煌莫高窟などとともに、日中隊が「五星出東方利中国」錦を発掘した「新疆ニヤ遺跡」も選出された。「1995年中国十大考古新発見」「20世紀中国考古大発見100」につづく栄誉である。などとお知らせした、その詳細です。

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ニヤ遺跡はタクラマカン沙漠に残存する「西域36国」のひとつ「精絶国」(撮影:筆者)

日中共同ニヤ遺跡学術調査(中国国家文物局批准・日本文科省助成)は1988~97年、佛教大学・龍谷大学・関西大学・京都造形芸術大学・国立歴史民俗博物館・京都大学・科学技術庁・京都市埋蔵文化財研究所・奈良文化財研究所・早稲田大学・国学院大学・橿原考古学研究所・六甲山麓遺跡調査会・寺尾商会・国家文物局・北京大学・中国科学院・中国社会科学院・華東師範大学・新疆政府・新疆文物局・新疆文物考古研究所・新疆博物館などの多領域専門家の尽力をえてタクラマカン沙漠で大規模調査を敢行した。

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1988年、中古トラックで1日、ラクダで3日を要して遺跡に到達(撮影:筆者)

ニヤ遺跡はタクラマカン沙漠南縁の民豊から約100㎞北上した一帯に所在。前1世紀頃から5世紀頃まで、都市国家として交易で栄えた。東西約7㎞・南北約25㎞(周辺ふくむ)の広大な範囲に寺院・役場・住居・生産工房などの遺構が200以上残存している。調査には日中双方の考古学・仏教学・地質学・建築学・木質科学・保存科学など多領域の研究者が参加した。計画から始まり契約・中国政府許可を経て現地調査開始。調査は分布調査から始め撮影・測量・発掘へと進んだ。1995年調査で「五星出東方利中国」錦を発掘、後に特別貴重と「出国展覧禁止文物」に指定された、いわば「中国の国宝中の国宝」となったといえる。

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当時の新疆と中原王朝が政治・経済・文化で密接な関係であったことを物語る国宝(撮影:杉本和樹隊員)

大沙漠での調査は過酷。明け方は零下10度、昼間は40度近い。朝は前夜の残りの羊肉を御粥にぶっかけ、昼は硬いナンとソーセージを水で流し込み、夜は羊丼、テントで雑魚寝の3週間。外国との共同調査・度々の協議書調印・多くの研究機関との調整・中国政府発掘許可取得・多額の資金調達・・・。

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吹きつける砂を防ぎながら発掘(撮影:筆者)

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ニヤ調査1993年隊(部分・撮影:隊員)

そんな困難を乗り越えての総合調査、「五星出東方利中国」錦発見は成果の一部にすぎず、専門的ながら略記すれば、●仏塔・寺院・墓地・住居・生産工房・城壁状土塁・家畜小屋・果樹園・貯水池・並木など約250ヵ所の遺構を発見し、GPSで登録、遺構分布図を作成した。●大型GPSを活用し、周辺地形図を作成、遺跡全容を明らかにした。●遺跡北40kmに約3,000年前の遺構遺物を発見し、生活拠点の南下を明らかにした。●関連都市の住居を測量調査し、遺跡住居構造を明らかにした。●いくつかの住居群や生産工房を測量調査発掘し、生活状況や都市構造を明らかにした。●寺院を発掘調査し、壁画などを検出、西域仏教解明の手がかりをえた。●王族の墓地を発見発掘、国宝級遺物多数を検出し、精絶国が当時の中原王朝と政治経済文化面で密接な関係があったことを明らかにした。●住居の柱材などをC14法により測定し、遺跡年代確定の大きな手がかりをえた。●カローシュティー・漢文木簡・化石をふくむ大量の貴重遺物を検出し、新しい知見をえた。●カローシュティー・漢文木簡を解読し、新しい知見をえた。●これらの結果、西域36国「精絶国」の全容を明らかにした。

タクラマカン沙漠で大規模調査後も研究・報告書・国際シンポジウム・講演・Webを通じて成果を発表し続けている。例えば調査隊編『日中共同ニヤ遺跡学術調査報告書』(法蔵館・中村印刷・真陽社・A4判全3巻)は日中両文に英文サマリー、厚さ12cm・重さ7㎏にもなる。最近では大量の写真で調査全容を紹介した拙著『中国新疆36年国際協力実録』(東方出版)『21世紀は共生・国際協力の世紀 一帯一路実践談』(レコードチャイナ)がある。

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報告書・シンポ発表要旨・論文・写真集など日中英文17冊(撮影:筆者)

国際シンポジウムは佛教大学・ウルムチ環球賓館・北京大学で開催し、多分野の発表と討議を行なった。文物展は佛教大学・上海博物館などで開催し、2018年には新疆博物館で「ニヤ調査30周年成果展」が大々的に開催された。また中国各地はもとよりアメリカ・イタリア・韓国などでの展覧会へも出陳された。写真展も佛教大学・清華大学100周年記念行事・北京図書館などで開催した。講演は日中両国の多くの大学・ロンドンの大英図書館などで。

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佛教大・ウルムチ環球賓館・北京大での国際シンポは各2日(撮影:筆者)

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上海博物館でのニヤ調査文物展は50万人が参観、小僧の左が館長・右が新疆文化庁書記(撮影:博物館)

「中国考古学大会」へは習近平国家主席が祝辞を寄せている。「百年百大考古発見」は「人民日報」などで広く報じられた。昨今の日中関係にあって、日中が協力した考古調査が評価されたことは明るいニュースと喜んでいる。「1995年中国十大考古新発見」「20世紀中国考古大発見100」「出国展覧禁止文物指定」につづく「百年百大考古発見」は再びの栄誉、ニヤ調査発起人として、日本側隊長として、尽力いただいた日中諸氏に感謝するばかり。

ニヤ遺跡は「世界最大の木造都市遺跡」、2014年キジル千仏洞などが「世界文化遺産」となった「シルクロード:長安-天山回廊の交易路網」の申請計画に含まれていたが、当初共同申請国タジキスタン・ウズベキスタン側の準備遅れで申請延期と分離申請が決定、天山山脈周辺に絞られ、ニヤ遺跡や楼蘭などは次段階へ繰り越された。「一帯一路の歴史交流実例都市」でもあるニヤ遺跡は中国により着々と保護が行われている。やがて世界遺産となるであろう。

「中国考古学100年」は、中国とスウェーデンの国際協力に始まるが、その主役や前後に登場する袁復礼・アンダーソン・大谷光瑞・ヘディン・徐炳昶・スタイン・鮑尓漢沙希徳、さらにはヒトラーなどとの歴史つながり物語はまたの機会に。関連:日本最大の中国情報サイト「レコードチャイナ」で11/06から新疆の基本情報をお伝えする「私が見た新疆ウイグル自治区」を始めた。毎週土曜日10回連載予定です。(11/09記・長くなったので今回は「人生ほんわか」部分はお休み)

1942年名古屋生まれ。佛教大学卒。浄土宗僧侶、国際協力実践家。66年「宝石の鶴亀」(後にツルカメコーポレーション・あずみと社名変更、現エステールHD)を起業。93年株式上場。96年創業30周年を機に退任。中国新疆へは82年以来、150回以上訪問しキジル千仏洞修復保存、ニヤ遺跡やダンダンウイリク遺跡を日中共同で学術調査するなど文化財保護研究・人材育成など国際協力を多数実践。佛教大学客員教授を歴任し現在は佛教大学内ニヤ遺跡学術研究機構代表、新疆ウイグル自治区政府顧問。編著『日中共同ニヤ遺跡学術調査報告書』『日中共同ダンダンウイリク遺跡学術調査報告書』『念仏の道ヨチヨチと』『新疆世界文化遺産図鑑』『中国新疆36年国際協力実録』『Kizil, Niya, and Dandanoilik』『21世紀は共生・国際協力の世紀 一帯一路実践談』「スタイン第四次新疆探検とその顛末」など。日本「外務大臣表彰」・中国「文化交流貢献賞」「人民友好使者」ほか受賞。